menamomi.net   オランダイチゴ

オランダイチゴ 植物画

オランダイチゴ 植物画

オランダイチゴ

 オランダイチゴは今日(こんにち)市場では、単にイチゴと呼んで通じている。けれども単にイチゴでは物足(ものた)りなく、且(か)つ他のイチゴ(市場には出ぬけれど)とその名が混雑する。人によっては草苺(くさいちご)と呼んでいれど、これも別にクサイチゴがあるから名が重複して困る。オランダイチゴの名は回(まわ)りくどくて言いにくいし、他の名は混雑、重複するし困ったものだ。あるいは西洋イチゴといってもよかろうが、いっそ英語のストローベリ(Strawberry)で呼ぶかな、それがご時勢(じせい)向きかもしれない。  このオランダイチゴをむずかしく学名で呼ぶとすれば、それは Fragaria chiloensis Duch. var. ananassa Bailey である。日本産のモリイチゴ(シロバナヘビイチゴ)もその姉妹品(しまいひん)で、これは Fragaria nipponica Makino であり、いま一つ同属の日本産は、ノウゴイチゴで、それは Fragaria Iinumae Makino である。このモリイチゴもノウゴイチゴも共(とも)にその実はオランダイチゴそっくりで、ただ小形であるばかりである。その形、その味、その香(にお)い、なんらオランダイチゴと変わりはない。わが邦(くに)の園芸家がこれに着目(ちゃくもく)し、大いにその品種の改良を企(くわだ)てなかったのは、大(だい)なる落度(おちど)である。  このオランダイチゴ、すなわちストローベリの実の食(く)うところは、その花托(かたく)が放大して赤色(せきしょく)を呈(てい)し味が甘く、香(にお)いがあって軟(やわ)らかい肉質をなしている部分である。人々はその花托(かたく)すなわち茎(くき)の頂部(ちょうぶ)、換言(かんげん)すればその茎(くき)を食(しょく)しているのであって、本当の果実を食(く)っているのではない(いっしょに口には入って行けども)。されば本当の果実とはどこをいっているかというと、それはその放大せる花托面(かたくめん)に散布(さんぷ)して付着(ふちゃく)している細小な粒状(つぶじょう)そのもの(図の右の方に描いてあるもの)である。  ゆえにオランダイチゴは食用部と果実とはまったく別で、ただその果実は花托面(かたくめん)に載(の)っているにすぎない。そして畢竟(ひっきょう)このオランダイチゴの実も一つの擬果(ぎか)に属するのだが、それは野外に多きヘビイチゴの実も同じことだ。このヘビイチゴの実には甘味(あまみ)がないからだれも食(く)わない。いやな名がついていれど、もとよりなんら毒はない。ヘビイチゴとは野原で蛇(へび)の食(く)う苺(いちご)の意だ。

出典 植物知識 牧野富太郎

出典 植物知識 牧野富太郎

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