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リンゴ 植物画

リンゴ 植物画

リンゴ

 リンゴの果実は、これを縦(たて)に割ったり横に切ったりして見れば、よくその内部の様子がわかるから、そうして検(けん)して見るがよい。  その中央部に五室に分かれた部分があって、その各室内には二個ずつの褐色(かっしょく)な種子(たね)が並(なら)んでいる。そしてその外側に区切りがあって、それが見られる。すなわちこの区切りを界(さかい)としてその内部が真の果実であって、この果実部はあえてだれも食わなく捨てるところである。そしてこの区切りと最外(さいがい)の外皮(がいひ)のところまでの間が人の食(しょく)する部分であるが、この部分は実は本当の果実(中心部をなせる)へ癒合(ゆごう)した付属物で、これは杯状(はいじょう)をなした花托(かたく)(すなわち花の梗(くき)の頂部(ちょうぶ))であって、それが厚い肉部となっているのである。  これで見ると、このリンゴの実は本当の果実は食われなく、そしてただそのつきものの変形せる花托(かたく)、すなわち花梗(かこう)の末端(まったん)を食っていることになるが、しかしリンゴを食う人々は、植物学者かあるいは学校で教えられた学生かを除くのほかは、だれもその真相を知っているものはほとんどないであろう。  このリンゴは英語でいえばアップルである。今日(こんにち)の日本人はだれでもこれをリンゴといってすましているが、実をいうとこれはリンゴではなくて、すべからくそれをトウリンゴまたはオオリンゴ、あるいはセイヨウリンゴといわねばならぬものである。そして漢字で書けば苹果でありまた※(「木/示」、第4水準2-14-51)である。  元来(がんらい)、本当のリンゴは林檎であって、これはその実の直径およそ三センチメートル余りもない小さいもので、あえて市場へは出てこなく、日本では昔その苗木(なえぎ)がわが邦(くに)へ渡って今日信州(しんしゅう)〔長野県〕あるいは東北地方にわずかに見るばかりである。元来(がんらい)日本の原産ではなけれども、これを西洋リンゴのアップルと区別せんがために和(わ)リンゴといわれている。すなわち日本リンゴの意である。  アップルすなわち西洋リンゴは、明治の初年にはじめて西洋から伝わりて爾後(じご)しだいに日本に拡(ひろ)まり、今日(こんにち)では東北諸州ならびに信州からそれの良果が盛(さか)んに市場に出回(でまわ)り、果実店頭を飾(かざ)るようにまでなったのである。  アップルを学名でいえば Malus pumila var. domestica であって、前の和(わ)リンゴは Malus asiatica である。元来(がんらい)リンゴは林檎(和リンゴ)の音であるから本当のリンゴをいう場合は何もいうことはないが、今日(こんにち)のように西洋リンゴ(トウリンゴ)を単にリンゴと呼ぶのは、実は当(とう)を得たものではないことを知っていなければならない。

出典 植物知識 牧野富太郎

出典 植物知識 牧野富太郎

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